女神小说

这条路

女神小说 2023-04-05 16:08 出处:网络 作者:女王小说编辑:@女神小说
最终话  斤木かえで   ? 「かえで、久しぶりだな」 「そうだね。もうずいぶん长く会ってない気がするよ」
最终话  斤木かえで   ?
「かえで、久しぶりだな」
「そうだね。もうずいぶん长く会ってない気がするよ」

 お互い、物心ついてからほとんど毎日顔を合わせていただけに、一ヶ月ほども别れてからの再会には奇妙な懐かしさがあった。
 言うべきことはいくつか考えてきた総太郎だったが、まず妹の格好について言及せざるを得なかった。

「にしてもお前、その格好は……」

 彼女は、见惯れた学生服を身につけていたのだ。それも、かえでが通っている学园の制服ではない。

「そう、お兄ちゃんが持ってたミリエラの制服だよ。もらってからクリーニングして、その后は毎日袖を通してたから、もう完全に私の制服って感じになっちゃってるけどね。前の持ち主だった女の匂いを消し去りたかったんだ」

 かえでは制服姿を夸示するかのように、しなを作ってみせる。
 深い緑色を基调とした圣ミリエラ女学院の制服。おとなしめのデザインをした服だが、ショートカットの髪をした活発な印象のかえでにも、不思议とよく似合っている。

「お兄ちゃんが一番动揺した格好だし、これで相手してあげるのが一番面白くなるかと思ってね」
「まったく、妙なことを考えるなあ。まあ、どんな格好をしていようとどうでもいい、今日こそは俺のもとに戻ってきてもらうからな」

 かえでは开けた草地の真ん中に阵取っている。総太郎は数メートルの间を取って、彼女の正面に移动した。

「俺はあれから考えたが、お前のことは无理にでも连れ戻すと决めた。お前の斤木流は、ここにいる时间が长くなるほどに、本来のものとは别の形に変质しちまうだろうからな」

 そして、そんなかえでがもし斤木流の当主となってしまったら、斤木流はもはや斤木流でなくなってしまう。父の残した流派へのこだわりが强い総太郎にとって、最も危惧すべき事态なのだ。
 総太郎は构えを取る。半身になり、左足を前に出したオーソドックスなものだ。

「俺が胜ったらお前には即刻斤木流に戻ってもらう。いいな」

 それを前に、かえでは笑みを崩さない。

「ふうん、それがお兄ちゃんの结论なんだ。いいね、わかりやすくて。そういうの嫌いじゃないよ」

 かえでも同じような构えをとる。

「わたしが胜ったら、お兄ちゃんにはわたしに当主の座を譲ると明言してもらおうかな」
「いいだろう。俺がこうやってお前に挑むのは二度目だ、これでまた负けるようなら、どのみち俺は当主にふさわしくはないだろうからな。だが、そう简単に譲るわけにはいかないぜ」
「そうこなくちゃね」

 かえでは両目を闭じ、小さく息をつく。
 どうやらかえでは紧张している。総太郎にはそれが伝わってくるが、総太郎とて同じ気持ちだ。
 前回の悔しさはよく覚えている。幼い顷から身近で竞い合ってきた相手であるだけに、絶対に负けたくないという気持ちも强い。本音を言えば、これ以上负けたくない相手はいないほどだ。

(子供っぽいかもしれないが、もう二度と负けたくはない)

 冷たい风が吹き、背の低い草がなびく中、合図もなく胜负は始まった。





 神仓流へと身を投じた后のかえでとは、これが二度目の胜负となる。
 前回の败北からはまだ一ヶ月経っておらず、记忆に新しい。最终的に纸一重で负けたような终わり方ではあったが、実际にはかえでの惊异的な强化に戸惑ったこともあり、明确な差をつけられて负けてしまったという感覚が総太郎にはある。 本文来自
 総太郎も强くなっている自覚はあるが、あの顷はかえでも秘法を覚えて间もなかったはずだ。今は体の感覚もこなれているであろうし、さらに动きが鋭くなっている可能性は高いだろう。

(今のかえでの実力は未知数もいいところだ。たぶん、かなり难しい胜负になるだろう)

 もしかすると冴华よりも手强い可能性もあるのだ。斤木流の技と神仓流の秘法のシナジーがどれほどのものであるのか。その真価をかえでが大きく引き出せているとすれば――

「どうするか……」

 総太郎はどう戦うか考える。未知数の相手に强気一辺倒では危険かもしれないが、かと言ってこちらから仕挂けなければかえでがやりやすくなるだけかもしれない。
 そんな风に方针を决めかねていた総太郎の様子を観察していたかえでは、小さく腰を落とすと、すぐに攻めかかってくる构えをみせた。

「いくよっ、お兄ちゃん!」
「来るか!」

 迷っているときではない。かえでから攻めてくるのであれば、いつも通りそれを受け流してペースを作り、胜负をコントロールして胜てばいいのだ。今の総太郎には、そうした戦い方を贯彻するために必要な技が身についている。

「たあっ!」

 かえでらしく一直线に间合いを诘めてくる。総太郎は慌てず、无駄のない动きでそれをかわし、横合いから突きを叩き込みに行く。

「ふっ!」
「むっ!」

 かえでは突きを腕でいなしながら少し下がる。そこから二、三度の突きの攻防があった。

(やはりかえでの技の威力は増している。しかし、俺だって)

 打ち合いなら负けてはいられない。総太郎は素早く突きを连打し、かえでの突きを强引に打ち破ってゆく。

「くっ、さすがっ!」

 かえでは近距离の打ち合いを嫌がって间合いを取った。

「余裕は与えないぜっ!」

 総太郎は追撃する。距离的に、刹涡冲を打ち込むのに适した间合いだ。以前とはステップの质が违う自信もあり、このチャンスに一気に决められる可能性もある。
 が、かえでは総太郎の追撃を待ってはいなかった。瞬间移动かと思えるほどの鋭いステップで前に出てきたのだ。それが兎脚法を使った足运びだと分かった瞬间、総太郎はぞくりと背筋に寒いものが走るのを感じる。
 それは格闘家としての本能が告げた予感だった。

(やばいっ!)

 察知はしたが、体は反応できず、一瞬で懐にまで入られてしまう。もともと前に出る力に优れていたかえでだが、秘法の力のおかげで异常に鋭い踏み込みになっていた。

「うりゃあああぁっ!」

 そして、低い飞び込みから、间髪入れずに真上への燕撃斧が放たれる。当たれば首がもがれてしまうのではないかと思うほどの猛烈なハイキックだ。スカートがひるがえり、総太郎の目の前にかえでの白い下着と、それに包まれた小さなお尻がむき出しになる。
 総太郎は前に出る体势のままだった。とっさにかえでの蹴りをかわそうとするが、体重移动をいきなり逆にすることなどできようはずもなく――
 そして、次の瞬间。

 ガシイイイイィィッ!

「ぐあぁっ!」

 胸板にハイキックが直撃し、前倾姿势だった総太郎の体は跳ね上げられてしまう。前に出ようとしていたため、カウンターのような形で入ってしまった。

「がっ、あ……」

 意识が飞ばなかったことは奇迹と言うしかない。车にでもぶつかったかのような、今までの人生で味わったことのない强さの冲撃だった。総太郎は目に映る世界がぐるぐる回転しているかのような、ふわふわした感覚に包まれる。
 三半规管が乱され、膝をがくがくと震わせながら数歩后ずさる。隙だらけだが、かえでは追撃してはこなかった。

「うわぁ、すごい手応え……だ、大丈夫? 死んでないよね?」

 気持ちよさそうな笑みの中に、やや恐怖のような感情が见える。相手を杀しかねないと思えてしまうほどの手応えがあったということだ。
 しかし、総太郎がそのまま后ろに尻もちをついたのを见て、かえではふっと息をつく。どうやら命に别条はないことが分かったのだろう。

「いきなりいいのが入っちゃったね。どう? わたしの燕撃斧、もうお兄ちゃんの技を超えちゃってるでしょ」
「ぐっ……ま、まだっ」

 総太郎はなんとか立ち上がる。だが、かえでの言う通りいきなり致命的な一撃をもらってしまった。あまりに强烈な蹴りだったのだ。膝が笑ってしまっているのが分かる。

(踏み込みも蹴りも、以前とは别物だ……かえでの得意だった前への动きを、兎脚法がこれでもかと补强している。これほど、斤木流の技と噛み合うとは)

 分かっていたこととはいえ、改めてそのことを思い知らされた。燕撃斧の威力は、総太郎のそれを上回っていることは疑いない。

(骨が折れてないのが不思议なぐらいだが……でも、とにかくKOもされずに俺は立ち上がれている。まだ、あきらめるわけにはいかない……)

 少したたらを踏みながらも踏ん张り、総太郎はかえでを见据える。が、ミリエラの制服を身にまとった妹は、総太郎の様子を见て苦笑している。

「わたしもマジでやるつもりだったけど、こんなことになっちゃあもうダメだよ。わたしはお兄ちゃんをいたぶるような胜负はしたくないし、もう降参しない?」
「そんなわけにいくか……このくらいで胜ったつもりでいると、痛い目を见るぜ!」

 言うことをきかない足に鞭打つようにして、総太郎は前に出てパンチを放ってゆく。かえではそれを余裕を持ってさばいた。

「うん、确かにお兄ちゃんのしぶとさは私もよく知ってるし、向かってくるなら容赦はしないよ」

 その言叶通り、かえでの表情からは油断は一切感じられない。胜利を确実なものとするまでは手加减はしないという意思があり、かえでも胜利を渇望していることが分かる。
 どちらが胜利への执念を强く持っているのか。それが试される一戦だ。しかし、かえでがこうも有利な状况になりながらも缓みを见せないとなると、现実的には厳しい。

(とにかく一撃入れることができれば、泥仕合に持ち込める可能性はある)

 体に力は入らないが、この状态でも威力のある一撃を打つことはできる。もちろん万全のときよりは威力は落ちるので不利に违いはないが。

(こうなったら、とにかくかえでにだけは胜つ。あとのことは考えてもしょうがないし、ここですべてを出し切るんだ)

 もう冴华のことは忘れるしかない。かえでに対して体力に余裕を持たせて胜てなければ、冴华になど胜てようはずもなかったのだ。今は目の前の相手にだけ集中すると総太郎は决めた。
 総太郎は间合いを诘めてゆく。リーチでは自分が有利ではあるのだが、それを活かした戦いかたはもう脚が杀されているのでできない。危険でも接近していくしかないのだ。

「おおっ!」

 かえでの隙を生み出すための突きを缲り出す。全力でありつつも、その后の展开を见据えた突きだ。
 しかし、かえでもその狙い理解しているのか、総太郎の攻撃に対してカウンターを仕挂けてこようとはしない。まともに付き合わず、総太郎の攻撃が途切れたところに踏み込んで蹴りを缲り出してくる。

「せいっ!」

 ビシッ!

「うぐっ」

 ローキックがまともにヒットし、ただでさえ踏ん张りのきかなかった総太郎の右足がかくんと崩れる。
 そこに、かえでは蹴り足を完全に戻さないようにして连続で中段蹴りを放ってくる。
「普段ならともかく、今はわたしのほうが素早く动けるんだし」

 恐ろしいほどに冷静な戦い方。こんなものを、いつかえでは身につけたのだろうか。今の彼女には総太郎と真っ向胜负を楽しんでいたときの面影はない。

「悪く思わないでね。本当に胜てるって手応えが出てきたからには、このチャンスは絶対に逃したくないから」

 こういう戦い方をするかえでは総太郎は相手をしたことがない。こういう状况ならば総太郎もかえでが知らないものを见せるのがいいのだが、刹涡柳影倒舞はもうフットワークが死んでいる以上使えず、结果、かえでが知っている顷の技ばかりで戦わねばならない状态だ。
 ダメージの问题だけでなく、そもそも不利な要素が多すぎる状况だった。

(これは参ったぜ、胜つための糸口が见つからない。でも、こういう状况を乗り越えた回数だけは、俺の方が上のはずだ)

 アドバンテージと言えば実戦経験ぐらいのものなのだ。普段はそれが不利に働くが、かえで相手の场合は逆になる。かえでは総太郎以上に実戦経験に乏しい。
 それを信じて前に出るが、かえではやはり自分から攻めてはこない。无理をせずとも総太郎が动いて隙を见せるのを待てばよい、そう判断するのが当然だ。
 ならば、と総太郎はひとつ考えを持って、両足に鞭打って鋭く前にステップする。

「ふっ!」

 右の突きから入る。カウンターを仕挂けてこないことは分かっているが、総太郎の攻撃を受けた后、その后の攻めを溃すように技を打ってくるはずだ。そんなことは総太郎の技が余裕を持って见切れるものだからできることだ。
 ならば、その溃し技をあえて出させ、それにカウンターを合わせればいいのだ。溃し技を出させるには、技を出した后に隙を见せてやればよい。
 本命はこの左の突き。もちろん刹涡冲だ。あらかじめ缲り出すことを决めていた突きであり、かえでの蹴りよりも先に入るタイミングだ。接近戦を挑んでこないかえでに无理やりカウンターをかぶせていくためには、决め打ちにするしかなかった。
 しかし――かえでは、蹴り足を止めて间合いを少し离した。

「なにっ!」

 フェイントだったのだ。明らかに総太郎がかえでの反撃にカウンターを入れることを狙っているのを见切っていた。
 间合いが离れては刹涡冲は正しく威力が発挥されない。离れた间合いを追いかけようとすれば踏み込みも腰も拳に乗らず、ただの流れるだけのパンチになる。
 そして、かえではそれを手で払いのけ、総太郎の体が泳いだところに右から中段の回し蹴りを腰に决める。

 ドスッ!

「がはっ!」

 体の芯に响く蹴り。起死回生を狙っての攻めは実らなかった。

「やあっ!」

 続けてハイキック。総太郎は必死でそれを头を低くしてかわそうとするも、かえでは途中で角度を変え、総太郎の侧头部に当ててきた。

「あぐっ!」

 角度が変わった分威力は下がったが、それでも今の総太郎にとっては充分な打撃だ。これ以上は本当にまずいと思って総太郎は后ろに下がるが、そこにかえでは距离を诘めてきてローキックを打ってくる。
 ビシッ!

「ぐうぅっ……」

 足を杀しに来るのはこれ以上なく的确だ。そして、かえでの动きはいちいち総太郎の逃げる先を読み切ったように入れてきている。 内容来自

「さっきのは惜しかったけど、残念だね。わたしの油断を计算に入れた攻め方をしなきゃ打开できないだなんて」

 そう、先ほど総太郎がやったのは格下の人间がまぐれ狙いでやるような戦法だ。そんなことをせねばならないというのが総太郎の不利を物语っている。
 受ける侧が冷たく戦える精神状态であれば、そんなものは通らない。総太郎は自分の考えがまだ甘かったことを思い知らされ、唇を噛む。

「くそっ、まだだっ!」

 そして、総太郎はそれでも反撃の机会をうかがいながら必死にガードを固めながら耐えるが、どんどんジリ贫になってゆく。

(くっ、このままじゃまずいっ。何か、手はないのか)

 まだ体が动くうちに事态を打开しなければならない。総太郎は耻も外闻も捨てて后ろに転がり、かえでから间合いを取りながらなんとか立ち上がった。

「はぁ、はぁ……」
「ここまで痛めつけて倒れないのはさすがだけどね。いいかげん、もう胜ち目はないと悟ってくれていいと思うけど」

 妹の言叶が正しいものであることを総太郎は理性では认めざるを得ない。が、ミリエラの制服を身にまとい、下着を见せつけながら蹴りを缲り出してくる妹の姿があまりにも挑発的に见えて、総太郎は素直に首を縦に振る気がしなかった。

「お前を取り戻すこともできずに帰れるか」
「そんなにわたしに戻ってきてもらいたいんだ?」

 かえでは少し笑みを浮かべたようだった。一瞬ではあったが、総太郎には分かった。

「お兄ちゃんはてっきり、冴华を倒すついでに私を取り戻すつもりなのかと思ってたよ」

 今まで兄にとって自分は优先顺位では二番目以降だという自覚があり、かえではそれが気に入らなかったのだろうか。
 确かに、この殴り込みにおいては冴华が最终目标ではある。対して、かえでは総太郎以外眼中にないはずだ。その意识の差がこの圧倒的不利な状况に现れてしまっているのだろうか。

「お前の言いたいことは分かるが、俺は……赘沢だろうが、お前を取り戻すことと冴华から看板を取り戻すこと、どっちも絶対に成し遂げたいと思って来たんだ」

 そして、乱れた呼吸を整えるように、ひとつ大きく息を吐く。

「だから、俺は动けなくなるまでは负けを认めないぜ」

 もう构えを取ることは难しい。しかし、自然体の体势から技を缲り出すこともできる。
 そんな兄を见て、かえでは少し苦味を感じさせるような目を一瞬见せてから、もとの无表情に戻る。

「最初にあんな蹴りをもらっておいてここまでできるなんて、お兄ちゃんはやっぱりすごいね。わたしなら一撃で戦えなくなってただろうし」

 かえでは目に闘志をみなぎらせ、再び构える。

「わかったよ、つまらない戦い方でじわじわなぶり杀すのはやっぱり主义じゃないし」

 真正面から胜负するつもりだ。総太郎にとっては望むところだが、果たしてチャンスとなるだろうか。
 かえでの构えは、左足を前に出した、少し前に体重をかけたような体势。明らかに右の蹴りを缲り出すことを狙った构えだ。

「お兄ちゃんに敬意を表する意味でも、わたしの最高の技で决めてあげる」

 いったい何を缲り出してくるのか。先ほど総太郎の戦闘力の大半を夺った燕撃斧か。それとも……

(なんだろうと、俺も自分にできる最高のものを出すだけだ)

 ダメでもともと、総太郎も自分の持てる技で応えるしかない。どうせ、今の足の状态ではまともにかわすことはできないのだ。先に技を入れることを狙ったほうがよほどよい。
 そう决断すると総太郎は前に出る。

「いくぞ」

 自分でも惊くほど、すっと足が前に出た。自然体で立っていた状态から动くのは、相手に狙いを悟らせないという意味では优れているし、不意も突きやすい。突き诘めれば一番実践的かもしれないのだ。
 二人は鋭い动きで、互いにトドメをさすために前に出た。

(これなら、胜负をかけることができる!)

 もはや気力だけで动いているような総太郎。相手の技を见てからなど悠长なことはできない。ほとんど本能で、奥义を缲り出す。

「でやああぁっ!」
「てええぇいっ!」

 かえでもすでに技のモーションに入っている。やはり蹴りだ。が、燕撃斧のような打ち上げ蹴りではない。半身の体势からの、上からの打ち下ろしの蹴りだ。
 そして、総太郎の拳とかえでの蹴りが交错し、一瞬先に当たったのは――

「がふっ!」

 かえでの足が総太郎の脇腹を打った。
 よろりと崩れる総太郎。そこに、かえではその体势のまま続けざまに横蹴りを放とうとしている。溜めを作ってから缲り出されようとしているので隙があるのだが、総太郎はそれを、ただ见ていることしかできなかった。
 溜めから缲り出されたのは、腰の乗った强烈な蹴りだった。

 ドスッ!

「がはああぁぁっ!」

 横蹴りをまともに食らって、総太郎はその场に背中から倒れた。

「がっ、あ……ぐっ……」

 体中の残った力をすべて失ってしまったかのような感覚。今度こそ、本当に力尽きてしまったのだということが自分でも分かってしまう。
 そして、かえでは蹴り足を戻しながら、総太郎を冷静な目で见下ろしながら口を开いた。

「斤木流奥义、飞燕?狐月旋斧」

 かえでの立ち姿を见上げながら、総太郎はその技の名を知っていた。飞燕のカテゴリーに入っている高度な奥义――
 打ち下ろし蹴りで相手の动きを止めてからの足刀での横蹴り。かえでが得意としている奥义、燕撃斧よりもさらに高度な技术を要する。
 得意の燕撃斧でさえ、极めているとは到底言えなかったかえでの未熟な技量だ。狐月旋斧はさらに未完成であることは明らかだ。実际、かえでは二段目の威力を补うためなのか体势を立て直すためなのか、一瞬の溜めを作ってから横蹴りを缲り出していた。威力はあったものの、万全の状态だったら食らわずに済んでいた自信はあった――が、今の総太郎にはどうしようもなかった。

「どうかな? さすがのお兄ちゃんでも、もう立てないでしょ」
「ぐっ……」

 総太郎はなおも立とうとはしたが、打ち下ろしで踏ん张らされてから无防备なところに横蹴りを受けたのはたまらなかった。体に力が入らず、立ち上がるどころか体を起こすことさえできそうにない。
 头だけ持ち上げてみると、かえでが総太郎の前にしゃがみこんできているのが见える。スカートの奥の白い下着が目に映り、妹がミリエラの制服で戦っていたのだということを改めて认识させられる。

(く、くそっ……力が、入らない……かえでには、负けたくないのに……)

 そして、総太郎は妹の下着を目に焼き付けながら、力尽きて体を地面に投げ出した。

「だ、ダメだ……俺の、负けだ……」

 それを口にした瞬间、精神的な何かが自分の中で崩れ落ちたような感覚を覚えた。败北感か、それとも别の何かなのか――
 确かなことは、これで全てが水泡に帰したということだった。総太郎の视界には、ガッツポーズする妹の姿があった。

「や……やったぁっ! お兄ちゃんに胜ったー!」

 かえではこの日初めて、満面の笑顔を见せた。ここまできて初めて胜利を确信したということは、どれだけ优位に立とうとも、常に逆転される可能性を头に入れて戦っていたことを意味する。
 それほどに気持ちが入っていたということだ。総太郎は、何よりも一戦に赌ける気持ちで负けていたことを思い知らされた。

「く……っ……」

 ミリエラの制服姿で喜ぶかえでの姿をなすすべもなく见上げながら、総太郎は体中の力が溶けてなくなっていくかのような无力感に袭われた。

(ここまで来て、かえでに负けるのか……いや、俺はそうやっていつも思い上がっていたのかもしれない)

 かえでには负けてはいけないという意识が心のどこかにずっとあったのだ。妹は一人のライバルになっていたのだということを、しっかり认めて临まねばならない戦いだった。

「これでわたしが斤木流最强なんだ。认めてくれるよね、お兄ちゃん」

 自分のほうが上であると総太郎に口にさせることで、力関係が変わったことを実感しようと思っているのか。または、総太郎に思い知らせようと思っているのだろうか。
 いずれにせよ、かえでがこうまで総太郎を上回ることを欲していたとは、総太郎は今さらながら意外に感じていた。それとも、ずっと心の底にそうした思いを抑圧させていたというのだろうか。 内容来自
 かえでも格闘家なのだ、考えてみれば、自分のほうが下风のままでいることに纳得できるはずがない。一度は祖父がかえでを后継者に指名する话があったのだから、なおさらだ。この决戦は仪式として必要なものであり、父が存命していればおそらく彼の前でやることになっていたのではないか。
 それが今ここで行われ、后継者の座を赌けた胜负に総太郎は败れたのだった。败れた以上、総太郎はかえでの望み通りのことを口にしなければならない。

「ああ、认める……斤木流の后継者は、お前だ」

 その言叶を口にした瞬间、かえでは満足げな笑みを浮かべ、総太郎の目からは自然と涙が流れた。

「ううっ……」

 妹に负けて、自分のほうが弱いのだと认めさせられるのが悔しくないわけがなかった。
 兄のそんな姿を见て、かえでは少し気まずさを感じたように头をかいた。

「な、何も泣かなくても……」

 ちょっとやりすぎたかも、などと小さくつぶやきつつ、かえでは少し表情を和らげた。

「悔しいのはわかるよ、そりゃ当主の座だって取られるんだし、同じ斤木流をぶつけ合って负けたんだしさ。でもね、そんなこの世の终わりみたいな顔して泣いてるけど、わたしなんてもっと数え切れないほどお兄ちゃんに负けて悔しい思いしてきたんだからね?」

 慰めるつもりなのか纳得させるつもりなのか判然としないが、とにかくかえでは総太郎に谕すような言叶をかけてくる。

「そういうところが、わたしを妹としてしか见てない証なんだよね。ずっとライバルのつもりだったのにさ」

 そして、かえでは総太郎の肩をかつぐようにして立ち上がらせる。

「うっ……なんだ……?」
「今の季节、こんなところで寝てたら风邪引いちゃうからね。そっちの母屋に移动しようと思って。お兄ちゃんとやりたいこともあるし」

 総太郎は、かえでが自分をどうしようとしているのか予感はあった。前回もされたことだ。
 それを思うと、悔しさだけでなく少しの忧郁さと、そして微量のドキドキが心の中に涌いてきた。やはり、负けた以上はそうした行为も避けられないのだろう。





 そして、母屋の中に入り、かえでは布団を敷いてその上に総太郎を寝かせる。腕组みをして兄を见下ろしながら、かえでは宣告する。

「さてと。まず、この胜负で决まったことは、わたしが斤木流の当主となること。今この瞬间から譲ってもらうからね」
「……わかった」

 男に二言はない。この期に及んで约束を违える気はなかった。
 母屋に连れてこられる间に现実を认めることもできた。もちろん大きな悔しさがずっと胸にくすぶってはいるが、涙はもう止まっている。

「今から斤木家と斤木流の当主はかえでだ。秘伝书も、家に帰ったら渡す」
「うん」
「かえでは强い。ここ一年いろんな奴に负けてばかりだった俺よりも、流派を発展させていってくれるかもしれない」

 そう口にしてしまえば、思ったよりもすっきりした気分になった。
 形は违ったが、今になって祖父の望んだ形におさまっただけのことだ。しかも実力をぶつけ合って决めたことなのだから、祖父に反発を覚えた顷とは违って纳得もいく。
 そして、流派をかえでが背负ってくれるというなら、自分は修行の旅にでも出ようか。こうなった以上、自分の力を见つめ直し、いちから锻え直すのもいいだろう。弟子たちには申し訳が立たないが、こうなった以上は仕方ない……

「ところでお兄ちゃん、わたしに当主の座を譲ったからって、家を出ようとか思ってたりする?」
「……なんでわかるんだ」
「なんとなくね。今までは责任感から道场に腰を落ち着けてただけで、そこから解放されたら修行の旅とかに行きたがるかなーって」

 先回りされたのは、さすがに兄妹ゆえというところだろうか。ここは今日の胜ち负けとは関係なく、読まれるのが当然だったような気が総太郎はした。

「まあそれはしょうがない。当主の座を夺い返しに来ればいいって言ったのはわたしだし。お兄ちゃんも、これからはわたしをライバル视すればいいよ」

 今になれば、妹が何を望んでいたかはよく理解できる。

「……もちろん、俺もこれであきらめるつもりはない」
「うん、それでこそお兄ちゃんだね。わたしはいつでも道场で待ち构えてるから、夺い返しにきなよ」

 かえでは嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言った。一番の梦がかなった、とでも言わんばかりの満面の笑みだ。
 敌対してでも総太郎と対等になりたかった、それがかえでの决意だった。今となってはその愿いは确かにかなったのだ。
 おそらく総太郎にとって、一番强い感情を向けている相手は冴华だった。それがマイナスのものであったとしても。総太郎は冴华に胜つために今まで顽张ってきたのだ。
 その结果、冴华と再戦した际には负けて犯されたわけであるが――かえでは総太郎が冴华に犯されているのを间近で见て、彼女は総太郎に失望したのでもショックを受けたのでもなかった。冴华のところに自分が立ちたいと强烈に思ったのである。

「それにしても……」
「ん?」
「いや、今さら気づいたんだがな、さっきの胜负の结果がどうであっても、お前は斤木流に戻ってきていたってことなのか」
「ま、そういうことになるかな。もともと一时的なもので、いずれは斤木流に复帰するつもりだっていうのは以前にも言ったでしょ」
「まあな……」

 そうなると、先ほどの自分の言叶が耻ずかしく思えてくる。かえでを必ず连れ戻すと宣言したが、どっちにしろ妹はあの胜负で戻ってきていたわけだ。少し考えれば自明の理だったことである。

「当主として斤木流に戻るからには、わたしはこれから冴华に挑戦する」
「え……本気なのか?」

 今から冴华に挑むつもりだとは。それならば、もう完全に斤木流当主のつもりでいるということになる。

「本気だよ、今は斤木流が神仓流に挑んでるわけだし、わたしもそれに参加する。当主なんだから」

 それはなにかおかしいような気もしたが、総太郎はそれよりもかえでのことを心配した。

「しかし、あいつには秘法は効かないぞ」

 秘法が使えないのであれば、斤木流と神仓流の相乗効果によって强くなっている今のかえでの実力は充分に発挥されない。それでは冴华には胜てないと総太郎は言外に言い、かえでもそれは理解しているようだった。

「……そうだけど、挑戦はするよ。お兄ちゃんがするはずだったものを邪魔したんだし、かわりに挑むのは当主としての责任でしょ。これからのためにも、わたしはそれだけの覚悟は见せる」 copyright

 そう言ったかえでの顔には、确かに覚悟のようなものが感じられた。当主の自覚がすでにかえでにはあるのだろうか。たった今、その座を得たばかりだというのに。
 妹が见せた大人びた表情に、総太郎は思わず目を见张った。そして、かえではややあって表情を和らげる。

「心配しなくても、わたしはここで终わったりはしない。いずれは冴华に胜てるように力をつけていくから」

 かえでも冴华との力の差は自覚してはいるのだ。それでも総太郎のかわりに挑もうとしている。
 総太郎としては止めるべきかと思うのだが、かえでの気が済むようにさせてやりたいという気持ちが上回り、気がつくとうなずいていた。

「わかった、好きにするといい。もう当主はお前なんだ」
「うん。で、お兄ちゃんには冴华との胜负を见ていてもらおうと思うけど、その前に、景気づけしてからにしたいんだよね」

 少し頬を赤くしつつ、かえでは総太郎が寝転がっている布団の上に乗ってきた。総太郎にもさすがに何をされようとしているのか分かり、抵抗しようかと一瞬考えるのだが――体力的にも立场的にも无理だということをすぐに悟るのだった。





「ふふん、お兄ちゃんは全裸になってるのにわたしは全部服を着てるのって、なんだかドキドキしちゃうなあ」
「ど、どうするつもりなんだ?」

 ミリエラの制服に身を包んだままのかえでは、胜负が终わった今こうして见ると大人びて见えて、総太郎はついどきりとしてしまう。
 しかし、服を着たままということは、いきなりセックスをするつもりではないのだろう。果たして何をされてしまうことか。

「じゃ、まずはこのふにゃってなっちゃったおちんちんを勃起させないとね。手や口でしてもいいけど、やっぱりお兄ちゃんを蹴りで倒したんだから、脚でやるのがいいかなー」

 少しサディスティックな気分になっているのか、攻撃的な笑みがかえでの顔には浮かんでいる。しゃくではあったが、负けた以上は何をされても受け入れねばならない。
 総太郎が大人しくしていると、かえでは総太郎の股下に座り込み、太ももでペニスをはさみこんだ。

 ぐにゅっ……

「うっ……!」
「どう? ふとももの感触なら、気持ちよくしてあげられると思うんだけど」

 かえでの脚に触れたことなど几度もあるが、こんな风にペニスを刺激されるのは初めてだ。すべすべとした太ももの感触は心地の良い弾力に満ちていて、総太郎は挟まれただけで反応しそうになる。 本文来自

「勃起させるには刺激がいるから……こんな风にぐりぐりしてあげたらどうかな?」

 ぐにっ、むにっ……

 かえでが脚を互い违いに动かし、ペニスを左右から刺激してくる。ほどよく圧力がかかり、かえでのなめらかな肌による刺激は、総太郎にかえでの脚を异性のそれであると意识させた。

(か、かえでの太もも、こんなに具合がよかったのか)

 一度妹の肌や柔らかみを性的に意识してしまうと、心臓の鼓动もどんどん加速してゆく。総太郎はすっかりかえでの太ももを心地よく感じてしまい、ペニスはむくむくと膨らんでくる。
 太ももの间から亀头が顔を出してくるのを见下ろして、かえでは嬉しそうに笑った。

「あはっ、おっきくなってきた? やっぱり脚に弱いんだね、お兄ちゃん。わたしのキックで负けちゃったせいもあるのかな?」
「ううっ……」

 実际、総太郎がこうして女性に负けて犯される际は、负けたことによる気后れがそのまま性的な反応に反映されることが多かった。性欲と女性恐怖症とが结びついていたことの后遗症がいまだ残っているのだろうか。実际、かえでの脚にもしっかりと性欲を覚えてしまっている。

「せっかく勃起してくれたことだし、脚で一回射精させてあげるね。このまま太ももでぐにぐにしちゃえば気持ちよくなってくれるよね」

 かえではペニスを见下ろしながら、それまでよりもさらに激しく太ももを动かし始める。

 ぐりっ、ぐりゅっ、ぎゅうぅっ!

「うっ、くうっ! ま、待て、ちょっと强すぎ……!」

 弾力のある太ももに激しく缔めつけるように责め立てられて、総太郎はたまらず身をよじりながらかえでに诉えた。
 しかし、かえではくすくす笑って総太郎をからかってくる。

「そんなこと言っちゃってぇ、身闷えして喘いでるじゃん。このくらい强いほうが感じちゃうんじゃないのー?」

 実际に痛みも感じていて本気の诉えではあったのだが、性感もあってペニスはしっかり感じてもいたので、かえでには信じてもらえなかったようだ。

「いや、本当に痛いって……」

 ぐにぐにっ、むにっ、ぐにゅうっ!

「あうっ、あああっ!」
「そんなに背筋を后ろに反らしちゃって、めちゃくちゃ感じてるように见えるんだけど?」

 そして、そんな风に强く责められ続けていると、次第に痛みさえもが性感に感じられてくる。

「うあっ、あっ……! や、やばい……!」
「あ、なんか変な気分かも。もうセックスもしちゃった仲だけどさ、お兄ちゃんがわたしの责めでそんな风に感じてくれちゃってると、なんだか照れちゃうなあ」 本文来自

 かえではかなりの照れを感じているようだったが、総太郎も同様だった。妹との性行为は前回もしたが、あのときはなし崩し的な势いもあったのでお互いに必死で、感慨を味わう余裕はなかったのだ。
 が、今回は二度目なのでいろいろ考える心の余裕がある。かえでに责められて感じてしまっているというのは、幼い顷から互いをよく知っている上、この歳まで性的に见たことがほとんどなかっただけに、他の女子との行为に比べて耻ずかしさが段违いだった。

「でも、すっごく兴奋してきちゃった。このままわたしの太ももで射精しちゃえ、お兄ちゃんっ!」

 ぐりぐりっ、ぐりゅううっ!

 かえでの太ももに责められるまま、だんだんと射精感が高まってくるのを感じる。このまま妹にイかされてしまうのか――そのことに抵抗を感じる间もなく、総太郎はその瞬间を迎えてしまう。

「それっ、イっちゃえっ!」

 かえではトドメとばかりに、太ももをそれまでで一番の强さで缔めつけながら上下に动かした!

 ぐにいいいぃっ!

「あ、あああっ! で、出るううぅっ!」

 びゅくっ、びゅっ、びゅるるっ!

「わっ、す、すごい……いっぱい出てる……」

 喷水のように喷き出した精液に、かえではびくりと反応する。

「うあっ、あっ……」

 腰を震わせながら、二度、三度と太ももの缔めつけによって射精する総太郎。妹に射精させられた耻ずかしさと背徳感から、かえでの顔を见ることはできなかった。

(ううっ、本当に射精しちまった……かえでの脚で……)

 快楽はかなりのものだったが、それがかえって罪悪感を煽る。ずっと守るべき対象だと思ってきた妹で性欲を吐き出してしまうというのは、総太郎にとってはこの上ない禁忌だった。たとえかえでの方からやりだしたことなのだとしても、それで罪悪感が帐消しになるものでもなかった。

「精液って热いよね、脚にかかったところが燃えちゃいそうだよ。なんかえっちな匂いするし」

 かえでの表情は、先ほどまであった照れが消え失せ、兴奋が全面に出てきている。

「ふふっ、こうなるといろいろやりたくなっちゃうなあ。あれだけ打たれた后でこんな射精したら体力的にキツいかもしれないけど、でも、もっといっぱいえっちしたいし……悪いけど、もうちょっと顽张ってね」

「つまんないこと気にしなくてもいいじゃん。どうせ、うちの両亲だってまともな関係じゃなかったんだしさ」
「……お前、何か知ってるのか?」
「さあてね。ま、とにかくお兄ちゃんもわたしで兴奋できるんなら、素直に身を任せちゃえばいいよ。どうせわたしはセックスをやめる気はないんだから、せっかくなら楽しもうよ」
「うーん、まあそうか……」

 确かに、どうせ抵抗できないのなら楽しむぐらいでもいいのかもしれない。気持ちいいことは间违いないのだ。
 それに、胜者の権利としてかえでは総太郎を相手にそれを望んでいる。ならば、甘んじて受け入れるのが正しい态度であるかもしれない。

「纳得したところで、それじゃ次のプレイね。まずはお兄ちゃんに気持ちよさに染まってもらって、つまらない抵抗を取り払ってあげないとね」

 今度は、かえでは右手をペニスに伸ばしてきた。それに触れると、軽く握り込んでくる。

「うっ……」
「体力的にはつらいはずなのに、ここは元気だね」
「疲れてると、かえって勃起しやすくなることがあるんだよ」

 耻ずかしさを纷らわすように、男性の生理现象を説明する。

「ふーん、そういうものなんだ。こういうときには都合がいいね」

 そして、かえではそのまま右手を上下に动かし、ペニスを擦ってくる。

 しゅっ、しゅっ……

「前回も手で弄ったし、どうすれば気持ちいいかはなんとなく分かるんだよね」

 左手を亀头に添えてこねくり回す。

 くにゅっ、くにっ……

「あ、ああっ……」

 そうしながら、右手もペニスの根本からカリの部分までを强めに擦ってくる。 本文来自

 くにゅっ、しゅっ、しゅくっ……

「うあっ、そこはっ……!」
「お兄ちゃん、切なそうな顔してるねー。感じてる声といい、こうして见下ろしてるとドキドキしてくるよ。どんどんめちゃくちゃにしたい気持ちになってきちゃう」

 舌なめずりでもしそうな、嗜虐的な表情。妹のこんな蛊惑的な顔は初めて目にする。総太郎はよく知った妹がそんな雰囲気を発していることに、思わず大きな兴奋を覚えた。

(かえでのこんな姿を见ることになるとは……)

 そうすると、ペニスも相応に反応してしまうのだった。

「おちんちん、なんだか膨らんできたね。そろそろ出ちゃうのかな?」
「そ、それは……」
「耻ずかしがらなくてもいいからね。お兄ちゃんが射精するところなんて、もう何度も见たことがあるんだから」 本文来自

 心当たりがあるのがむしろ耻ずかしい。かえでにはいろいろと情けない姿を见せてしまったものだ。

「ほらほらっ。ちょっとスピードアップするよ、妹の手でいっぱい気持ちよくなっちゃえ?」

 手の动きを速めてくるかえで。そろそろ絶顶しそうだというのが彼女にはもう分かるようだ。
 そして、左手の指先を尿道に当ててくりくりと刺激してくる。

「あ、ああっ!」
「いい反応? そうやってわたしの手なんかで気持ちよくされて震えてるところ、普段の頼もしいお兄ちゃんと全然违ってて可爱いよ」

 妹から可爱いなどと言われても、耻ずかしいばかりだった。言叶で嫐られているのは耻辱的だが、しかし、かえでの手つきはまだ多少ぎこちなさはあるものの充分すぎるほど気持ちよく、いつでも射精してしまいそうだ。

「さあ、そろそろイっちゃうんじゃない? 强くしてあげるね」

 しゅっ、しゅっ、しゅっ……!

「うあっ、ああっ……か、かえで、もう……!」
「出るの? うん、射精するところ、わたしにしっかり见せて。さあ、わたしの手で弄られて、思いっきりイっちゃえっ!」
「ううっ、で、出るっ……!」

 そして、総太郎は絶顶する!

 びゅるるるるっ! びゅくっ、びゅくっ……!

「やった、手でもイかせちゃった。ほらほら、まだ出るんじゃない?」

 くにゅっ、ぐにぐにっ……!

「あうううぅっ!」

 びゅるっ、びゅっ、びゅくっ……

 イっているところをさらに手を动かして刺激してきたことで、総太郎のペニスはさらに脉打ち、精液を激しく吐き出す。激しい快楽が连続したことで総太郎の背筋は反り返り、全身をがくがくと震わせた。

「ううぅっ……き、気持ちいい……」
「そんなに気持ちよかったんだ、わたしもお兄ちゃんを自分の手で射精させることができて嬉しいよ」

 かえでは优しくペニスを右手で抚でるようにしてくる。快楽の余韵が残るペニスにその柔らかな刺激は、絶妙に心地がよかった。

「前回は早くセックスしたくて急いだから、手では射精させてあげられなかったもんね」
「はぁ、はぁ……そう、だったな……」
「こうやって见下ろしながらイかせちゃうと、なんだか可爱く思えてきちゃうなあ。弟ができたらこんな风に感じるのかな?」

 ついに兄扱いではなくなってきたが、そもそもかえでの発言のおかしさに総太郎はさすがに突っ込みを入れた。

「まっとうな姉なら、弟を手コキで射精させたりはしないけどな……」
「あ、まだそういうお硬いこと言っちゃうんだ。これからセックスしちゃうっていうのに」

 前戯が终われば、当然本番が待っている。かえではいったん立ち上がって距离を取ると、ミリエラ女学院の制服を脱ぎだした。

「やっぱり裸同士でやりたいし、脱いじゃおっと」

 深緑色のブレザーをボタンを外して前をはだけると、その下から白のブラウスが姿を现す。ブラウスは汗で湿っていて、その下のスポーツブラが透けて见えていることに総太郎は目を夺われた。
 そして、ブレザーを脱ぎ捨ててしまうと、かえではブラウスのボタンを外してゆく。そのたびに少しずつ肌があらわになってくるのを见て、総太郎はドキドキしてくるのを感じていた。

(なんだ……かえでが服を脱ぐところなんて、いくらでも见たことがあるはずだぞ。どうして、こんなにしっかり见ちまうんだ……)

 性行为をしようとしているのだと思うと、どうしても目の前の妹を性的な目で见てしまう。先ほどまでの太ももと手での射精のせいであることは间违いないのだが、あれでかえでを性の対象であると思い知らされてしまったのだ。
 结局、格闘胜负だけでなく布団の上でもかえでに手玉に取られているようで、兴奋と同时に情けなさも感じる。

「よっと」

 ブラウスを脱ぐと、今度はスカートのチャックを下ろす。スカートはかえでの足元に落下し、ふわりと畳の上に落ちた。
 上下とも下着姿になったかえでの姿は、まだ発展途上の体つきではあるが、しっかり女らしいラインが形成されつつある。心なしか、以前会ったときよりも胸のふくらみが大きくなっているようにも见えた。
 ショートカットの髪もよく见ると少し伸びていて、このままなら春になる顷にはショートボブに近いくらいになるのではないか。

「……女らしくなってきたな、かえで」
「そう?」
「ああ、ちょっと会わないだけでも変わるもんだなって思うよ」
「そういうものかな。まあ、こんなに长い期间会わなかったことって今までなかったもんね」

 スポーツブラを头をくぐらせて脱ぎながら、かえでは少し不思议そうに言う。胸があらわになり、その膨らみと绮丽な乳首を目の当たりにして、総太郎は神妙な顔をした。

「なんだか不思议だ。お前の裸なんて何度も见てるのに、今は全然违って见える」

 汗で少し湿っているせいもあってか、肌がつややかに见える。実际、ところどころにアザがあるぐらいでかえでの裸は绮丽なものだ。

「ありがと。お兄ちゃんにそういうこと言ってもらうのは初めてだけど、さすがに照れるね」

 そして、かえではショーツに指をかけ、少しためらってからゆっくりと下ろした。
 あらわになった股间には、薄く毛が生えている程度だ。前回セックスしたときもこうして见たが、惯れるものではない。かえでが望んでいることであるとはいえ、どうしても罪悪感からは逃れられなかった。
 そんな総太郎の思いを知ってか知らずか、かえでは上体を起こした体势の総太郎の正面にかがみ込んでくる。自然、互いを正面に见据える体势になった。

「わたしはね、お兄ちゃんのことはずっと信頼してきたし、好きだったんだよ」
「ああ、俺だって家族としてならお前のことはずっと好きだった」
「なら、それをちょっと延长するだけだし、问题ないよね。男女なんて、他人同士でくっついても生活を一绪にしている间にお互いの嫌なところが见えてきて离婚しちゃったりするじゃない? でも、わたしたちはもうずっと一绪にいて、それでも仲良くやれていたんだから、理想の相手だと思うんだよね」

 それまでの良好な兄妹関係に性的な爱情をプラスするだけ。かえでの论理は単纯明快だが、だからこそ强靭に感じられる。
 こうしたところが、今のかえでの强さに繋がったのか。総太郎は、そんなことを思った。

「さて、お兄ちゃんの返事は后で闻くとして、今はめいっぱい爱してあげるからね」

 かえでは顔を赤くして、総太郎に口を开かせる前にのしかかってきた。さすがに照れがあるようだ。総太郎にも分かるが、兄相手に爱をささやくのは他人同士よりもよほど耻ずかしいだろう。

「かえで、お前」
「何も言わせないからね」

 かえでは総太郎に顔を近づけると、そのまま唇を重ねてきた。

 ちゅうっ……

「むぐっ……」

 いきなりキスされるとは予测しておらず、総太郎は惊く。その唇の柔らかさに心臓が少し跳ねてしまう。

「な、なんか、すごくドキドキするね」

 确かに、と総太郎も内心で同意した。
 幼い顷に游びでキスしたことはあるのだが、その顷の児戯のような雰囲気とはまったく违う。互いに男女を意识したキスを兄妹でするのは、独特の背徳感があった。

「ふう、やっぱり幸せだなあ。変な话だけど、こうなって良かったよ。冴华にも少しは感谢しなきゃいけないのかな」

 冴华が现れなければ、こういう関係になることはなかった。それを思うと、确かにかえでにとっては喜ばしい変化をもたらした人物でもあるのだ。

「さてと、じゃあそろそろいくよ」

 そして、かえでは腰を少し浮かせると、勃起した総太郎のペニスの上に自らの膣口をあてがった。
 前回のことを思うと、総太郎は声をかけずにはいられない。

「おい、大丈夫なのか」
「もう二度目だし、わたしも充分濡れてるから大丈夫」

 本人がそう言うのであれば、と思い、総太郎はかえでに任せる。
 かえではひとつ深呼吸をすると、そっと膣口に亀头を挿入する。さすがにつらそうな表情をみせるものの、そこからは思い切ったように腰を一気に落とし、ペニスを深く饮み込んでしまう。

 ずちゅううぅっ……!

「ううっ……!」

 暖かな膣と擦れ合う感覚。圧迫感のある膣肉に饮み込まれ、総太郎は快感に喘ぐ。あらかじめかえでの足や手で射精させられていなければ、挿れた瞬间に射精していた可能性は高かったろう。
 かえではというと、総太郎の腰にまたがった状态で笑みを浮かべている。

「ふう、さすがにまだ痛みはあるけど、初めてのときと比べると全然平気だったなあ。あれからちゃんとほぐれるように自分で惯らしておいてよかった」

 どうやら表情などからしても余裕がありそうで、むしろ総太郎のほうが我慢していなければすぐにでも絶顶してしまいそうだった。やはり体の相性は相当にいいようで、かえでの膣肉はペニスに络みつくようにフィットしている。

「お兄ちゃんのおちんちん、热くて固くて、挿れてもらってるだけでどんどんドキドキしてくるよ。このままでもイけちゃいそう」

 そう言いながら膣を缔めつけ、ペニスを圧迫してくる。こういう技术は神仓流で谁かに教わったのか、以前よりも明らかに性器を自由に操ることができるようになっている。 copyright

「や、やめっ、そんな风に刺激されたら……!」

 かえではペニスの感触を味わうために膣に力を入れただけなのだろう。しかし、その刺激が総太郎の性感を高めてしまう。
 そして……!

「あ、ああぁっ!」

 どぴゅっ、びゅくっ……! どぷっ、どくっ……

「んっ、あんっ? すごい、热いのがいっぱい出てる……」

 総太郎は絶顶し、かえでの膣内に精液を吐き出す。その感触を味わい、ほとんど妖艶とも言えるような表情をするかえで。

「ふふっ、ちょっと缔めるだけで简単にイっちゃったね。やっぱり、これだけたくましくてもお兄ちゃんのここは弱いなあ」

 快楽に震える総太郎を见下ろし、かえでは舌なめずりをする。妹としては见せたことのない姿を见せられて、総太郎は戦慄した。

(こいつ、いつのまにこんなになったんだ……)

 こうした妖しいほどの女らしさを见せつけられる日が来るとは、感慨深く思ってよいのか総太郎は微妙な気分になった。

「さてと、じゃあもっとおちんちんをいじめてあげる。このぶんだと、わたしが动けば何度もイっちゃいそうだね」

 ずちゅっ……

「ううっ……」

 かえでが少し腰を浮かしただけで、膣内のヒダがちょうどよくペニスと擦れ合う。そのたびにペニスに强烈な性感が伝わり、総太郎の背筋にゾクゾクとした快感が走る。
 性器の形が恐ろしいほどに噛み合っているのだ。気持ちがいいのに恐ろしささえ感じて、総太郎はかえでを制止する。

「かえで、待って……ゆっくり动い……」

 ずちゅうっ!

「うああぁっ!」

 びゅくっ、びゅっ、どぷっ……! 内容来自

 ふいにかえでが强く腰を落としてきたため、総太郎は瞬时に絶顶してしまった。

「あ、あううっ……」

 一瞬での絶顶は快感も强烈で、体中が弛缓したように震えている。そんな兄の姿を见下ろして、かえではふっと笑みを浮かべた。

「ごめんね。でも、弱くしてたらわたしが感じられないからさ」
「う、うっ……」
「ま、イきすぎても死んだりすることはないでしょ。いっぱいわたしの膣内でイっちゃえばいいって」

 そして、かえでは本格的に腰を上下させてくる。

 ずちゅっ、ずっ、ずぷっ……!

「あはっ、いい感じ。おちんちんと擦れ合う感覚が気持ちいいし、お腹の奥が少しずつ痺れてくるのを感じるよ。やっぱりお兄ちゃんとわたしは相性いいんだね」

 そう言いながら、かえでは容赦なく膣を缔めつけながら上下に腰を动かす。ペニスの感触や热をめいっぱい味わいたい、そんな欲求が伝わってくるかのような动きだ。
 そして、そんな动きに総太郎が少しずつ惯れてきたタイミングで、今度は横に円を描くように腰を动かしてくる。

 ぐちゅうううぅっ……!

「あぐううぅっ!」

 どぷっ、びゅくっ……
 びくっ、びくんっ……

 総太郎は再び絶顶し、强烈な快楽が全身を走り抜けるのを感じる。

「あ、またイっちゃった? ふふっ、ずるいなあ、お兄ちゃんばかりイって。わたしももっと気持ちよくなりたいんだけどなぁ」
「はぁ、はぁ……う、うぅ……」
「なんてね、こうやってお兄ちゃんがいっぱい気持ちよくなってるのを见下ろしてるだけでも楽しいよ。やっぱり、好きな人のことはたくさん悦ばせてあげたいし」

 かえでは楽しそうに笑みをたたえながら、さらに腰を上下动させる。妹の表情には昔から见てきたあどけなさも确かに残っているものの、それに妖艶さが加わって淫靡さを感じさせるものになっていた。
 短めの髪が上下に揺れ、汗がかすかに飞ぶ。上下に揺れ动くすらりとした裸体もこの上なく美しく感じられ、総太郎はかえでに见とれながら彼女が与えてくる快楽に身をゆだねていた。

(かえでを、こんなに绮丽だと感じるなんて……)

 セックスを通じて妹のことを完全に性的な目で见るようになってしまった。一度タガが外れてしまえば、そうなってしまうものなのかもしれない。

 ずちゅっ、ずちゅっ、ずぷっ……!

「んっ、あっ……奥を突かれるの、すごくいいかも……」

 かえでもだんだんと性感が蓄积してきたようだ。総太郎も、気がつくと腰を自分からリズムを合わせて突き上げていて、そのせいかもしれない。

「お兄ちゃんもわたしとのセックスを楽しんでくれてるなら嬉しいよ。一绪に気持ちよくなろうね」
「くっ……はぁ、はぁっ」

 まともな返事ができる余裕はなかった。かえでの动きはどんどん激しくなり、ペニスへの刺激も増してくる。
 気を抜けばすぐにでも再び絶顶してしまうだろう。しかし、最后くらいは一绪にイってやりたいと思ったので、なけなしの精神力を振り绞る。

「あっ、そろそろ来るかもっ……もっと、もっと激しくっ!」

 ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅうっ!

 かえでの动きがさらに加速する。総太郎の腰の上で跳ねるかえでの肢体はつややかに辉いていて、その美しさが目に焼き付く。
 そして、ついにかえでは総太郎の突き上げによってその瞬间を迎える。

「あ、あああぁっ! い、イっちゃうううぅっ!」

 びくっ、びくんっ!
 ぎちゅううううぅぅっ!

「うああああぁぁっ!」

 どびゅるるるるっ! びゅくっ、びゅっ、びゅううっ……!

 かえでがイった瞬间、强烈に膣が缔めつけられ、络みつくような圧迫を味わいながら総太郎も絶顶してしまった。気を失いかねないほどの强い快感に、総太郎は背筋を反らしながら体をがくがくと震わせる。
 そして、なおもかえでの膣壁は意思を持っているかのようにペニスを苛むのだ。

 にちゅっ、ぐにゅっ、にゅるっ……

「はうっ、あっ、あがっ……」

 びゅくっ、びゅっ……

 激しく络みついてくるかえでの膣肉に、総太郎のペニスはなすすべもなく连続絶顶させられる。柔らかな缔めつけによる快楽の连続は総太郎の脳裏を痺れさせ、体中がジンジンとした心地よい快感に包まれるような感覚をもたらした。

「ひ、ひうぅっ……」

 そんな感覚の中、うつろな目をしながら総太郎はぱたりと四肢を投げ出す。もう体中に力が入らなかった。

「はぁ、はぁ……ふうっ、よかったよー、お兄ちゃん。って、完全にダウンしちゃってる? ちょっと気持ちよくしすぎちゃったかな」

 ぺろりと舌を出してみせると、かえでは体を前に倒し、総太郎の首に抱きついてくる。そうすると、自然と顔同士が至近距离に近づいた。

「わたしを気持ちよくしようとしてくれてありがとね。こんな一方的なセックスなのに、それでもわたしを気遣ってくれるのは、お兄ちゃんらしいなって思うよ」
「あ……」

 そして、かえでは唇を重ねてくる。

 ちゅうっ……ちゅっ、ちゅぷっ……

「むぐ……う、っ……」

 粘膜の感触が心地いい。惯れ亲しんだかえでの匂いを感じても、もう肉亲の情と异性としての兴奋が混じり合った独特の爱情が涌いてきて、昔のようにはもう感じられないような予感がした。
 かえではキスをしながら、再び腰を沈め、腰も小刻みに动かし始める。

「ん、んっ……ちゅっ、んくっ……」

 ぎこちないキスだが、相手の唇をねぶろうとする意思の强さはかなりのもので、激しい感情が伝わってくるようだった。
 そして、総太郎はかえでの体の感触を全身で感じながら、キスの心地よさに酔うようにして再び絶顶する。

 びくっ、びくっ……

 総太郎のペニスからはもう精液は出なかった。かえでの骑乗位によって完全に搾り取られてしまったのだ。

(だ、だめだ……もう、セックスではたぶん、一生こいつには胜てない気がする……)

 じんわりと唇と膣から伝わる快楽に身をゆだねながら、総太郎はそんなことを思うのだった。





「ふー、気持ちよかったぁ」

 セックスが终わり、少ししてようやく落ち着いてくる。総太郎はさすがに完全に体力が尽きてしまっていたが、その感覚は心地のいいものだった。
 かえでも同じ布団の中で裸でくっついているが、セックスの后とはいえ妹であるだけに安心感が先立つ。后戯の感覚だけならば、今までのセックスの中でも良いものだった。

「ねえお兄ちゃん、どうかな。セックス、気持ちよかったでしょ?」
「まあ、な……」
「あれだけ乱れてたもんね。これで、わたしもお兄ちゃんを悦ばせてあげられるってことは証明できたし、少しは恋人としてふさわしい女になれたかな」

 その言叶に反応してかえでの顔を见ると、微量の不安と真挚さとが総太郎には伝わってきた。
 このセックスはただ総太郎に上下関係を刻み込むためのものではなく、彼女なりに総太郎に爱情を伝えたいという思いもあったのだろう。

「さすがに、もうわたしをそういう目で见られるようになったでしょ?」

 不安を晴らしたがっているような言叶だ。総太郎はふっと笑みを浮かべる。微笑ましく思ったのもあるが、感心もしたのだ。
 兄と恋人になりたいと思って関係に及ぶのには、大きな勇気が要るのは间违いない。ある意味で、総太郎はそのことに感心したのだ。
 そして、そうであるなら自分も、それ相応の覚悟を见せねばならなかったのだ。

(俺は覚悟が足りなかったのかもしれない。こいつが本気で俺と结ばれたいと思っているんなら、どういう返事をするにしても正面から受け止めてやらなきゃダメだったんだ。俺は今まで、そうできてはいなかったな)

 真剣な想いには、どういう返事になるにせよ真剣に応えねばなるまい。

(今までは伦理観に逃げてしまっていたようなもんだ。俺がこいつのことをどう思っているのか、しっかり考えないと)

 幼い顷から、妹との恋爱や性行为などはいけないことだと何となく感じながら生きてきたが、しっかり考えたことはなかったように思う。
 性対象としては、もう完全に兴奋できる相手になってしまった。何度も射精させられて、无理やり意识を変えられてしまったというのが実际のところだが。
 そして、ややあって総太郎は口を开く。

「分かったよ、かえで。俺もお前のことは女として见ることができる。ここまでされたから分かったことでもあるが……」
「ホント!?」
「ああ。でも、それでも俺はお前とは兄妹のままでいたいんだ」

 それが伪らざる本音だった。

「わたしが胜ったんだから、言うことは闻いてもらわなきゃ困るんだけど」
「分かっているが……俺も、妹に负けたままでは终わりたくない。もう一度だ。俺にもう一度だけチャンスをくれ」

 みっともないことは分かっていたが、総太郎は一生の愿いのつもりでかえでに头を下げた。

「俺は修行の旅に出る。戻ってきたとき、当主の座を取り戻すためにお前に挑戦する、そのための武者修行だ」

 そこまで総太郎が言うと、かえではふっと笑みを浮かべる。はじめから分かっていたとでも言いたげな表情だ。総太郎のあきらめの悪いことは、一番分かっているはずなのが彼女だった。

「うん。そういうことをしたがるだろうなとは思ってたよ」
「ああ……そして、俺が胜てば、元通りお前のことは妹として扱う。しかし、もし俺がお前に胜てずに终わったなら、そのときこそ俺はお前のものになろう」

 その言叶に、かえでは真剣な目でうなずいた。

「わかった、约束だよ。それまでわたしは斤木流を守ってるから。だから、絶対に帰ってきてよね」
「もちろんだ」
「そして、帰ってきたなら……わたしは絶対にお兄ちゃんをわたしのものにしてみせる」

 そう言ったかえでの目には、今までの人生で一度も见せたことがないような、执念のようなものが感じられ、総太郎は一瞬たじろいだ。
 それで総太郎には否応なしに理解できた。妹の自分に対する想いは、思っていた以上に强いものなのだと。人生を赌けてもいいほどの真剣さを感じ取って、そこまでの想いを向けてくれることに総太郎の心はぐらついたほどだった。
 しかし、それでも総太郎はまだ応えることはできない。

「――よしっ。やる気も最高に出てきちゃったし、この势いで冴华に挑戦といきますか」
「本当にやるのか」
「胜败はどうあれ、今まで溜めてきたものを冴华にはぶつけてやらないとね。わたしだって、お兄ちゃんほどじゃないにしても冴华には返したい借りがあるんだから」

 そう言って、かえでは立ち上がって道场を见据える。
 その妹の小さな背中に、もはや一人で何かを背负っていけるほどの大きなものを感じて、総太郎は寂しさに似たものを覚える。
 まずは、かえでの胜负を见守ろう。そして、その胜负が终わったとき、総太郎の新たなリベンジの旅が始まるのだ。
 すべては妹と真剣に向き合うために。



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 そして、その后――総太郎は武者修行の旅に出た。山辺胜吾のつてを頼って様々な格闘家のもとを渡り歩き、父から受け継いだ斤木流の理念として他の格闘技の要素を柔软に取り入れてゆく。
 総太郎が家を出ていったのち、斤木流道场はかえでが存続させた。かえでは冴华にはさすがに败れたものの、いつか看板を取り戻すことを誓って日々锻錬に励む。
 殴り込みの日から三年が経ったある日、斤木流道场ではかえでと凉子が手合わせをしていた。道着姿の二人は真剣に组手を続け、夕方になって锻錬を终えた。

「ありがとうございました」
「はい。凉子さんはどんどん腕を上げてますね、もう神仓流の门下生たちにも劣らないと思いますよ」

 姫乃と三原は総太郎がいなくなったことで斤木流から离れた。そのため、道场は基本的にこの二人だけで、たまに舞が顔を出すことがあるくらいになっていた。

「まだまだ……冴华以外の谁にも负けないくらいには锻えておかないと」

 壁际に移动し、二人は休む。かえでは三年で髪が伸び、やや色素の薄い髪を短めのポニーテールにしている。体つきも女性的になってきており、胸も膨らみが一见して分かる程度には大きくなっていた。
 凉子も髪がセミロングになっており、锻錬の最中は首の后で结ぶようにしていた。タオルで汗を拭く凉子を前にして、かえでは笑いかけた。

「凉子さん、よく続きますね。てっきり、お兄ちゃんのいない道场にはもう残らないかと思ってました」
「かえでちゃん一人になったら、この道场は开けなくなってしまうでしょう。総太郎のためにも、斤木流の存続には协力したかったから」 内容来自

 言外に、あくまで総太郎のためだということを含ませる凉子。
 かつてはかえでに対しても亲しみのある态度で接していた凉子だが、距离感はさすがに変化してしまっていた。

「お兄ちゃんのためですか。それだけのためにきつい稽古を毎日できるなんて、凉子さんはすごいですね」
「武术自体も好きになったから、それは问题ないわ」
「いえ……でも感谢しています。わたしのこと嫌いになったと思いますけど、それなのに付き合ってくれて」

 そう言われて、凉子は冷静な表情をしたまま柔らかい声を出した。

「嫌い、ということはないわ」
「え?」
「姫乃はあなたのことを许さないつもりみたいだけど、私はそこまでじゃない。私だって、総太郎が络むとエゴは出るし」

 かえでに対し理解を示しつつも、凉子はやはり友好的な表情をすることはなかった。

「ただ、今のかえでちゃんはもうライバルだと思うから、态度は変わるわよ」

 つまりはそういうことだった。かえでが総太郎にそういう感情を隠さなくなれば、凉子との関係も変化するのは仕方のないことであろう。

「なるほど。それなら、姫乃さんもそうなんでしょうか」
「姫乃の场合は、あの日のことを怒ってるのと半々かな。ま、総太郎が冴华との胜负に临むのを阻んだりしたらね。斤木流なのに神仓流侧に立って戦っていたわけだし」
「それは、あのときは仕方なかったですから」

 敌として兄の前に立ちはだかると决めたのだ。あのときは神仓流の门下生でもあったのだし、兄を通すわけにはいかなかった。

「本当はもっと长く神仓流にいて技を盗むつもりだったんですよ。だからあのときは神仓流の立场で戦うしかなくて」
「でも、総太郎とエッチしている间に情がこみ上げてきて、结局総太郎のかわりに冴华と戦っちゃった、と」
「う……」

 実はそうなのだった。かえでの判断は感情に流されたものであり、じつに彻底を欠いた中途半端なものになってしまった。

「もっと柔软な选択もできたでしょうに、情に流されて冷彻になりきれないあたりは総太郎と似てるわね」
「そう言われると……そうかもしれません」

 冷静になると、もっとうまい选択肢はあっただろう。それを思うとかえでは耻ずかしくなったのか、少し赤面したようだった。そもそも、総太郎を裏切ったときのことからして一时の感情で突っ走った结果であり、彼女にはそういうところがあった。

「わたしは何度でもお兄ちゃんと真剣胜负がしたい」

 冴华がずっと敌対者としてそうしてきたように。
 そうはかえでは口には出さなかったが、その日を心待ちにしていることは凉子も知っている。彼女は远い目をした。

「総太郎か、今どこで何をしているのかな……」

 そう凉子がつぶやいた次の瞬间、道场の扉が开いた。
 かえでも凉子も、たった今の话题のせいもあり、びくりとしながら扉の方に振り向く。
 すると――

「やー、お二人さん、元気?」

 顔を出してきたのは舞だった。

「なんだ、舞ちゃんかぁ。びっくりしちゃったよ、もう」
「え、なに? いつもこうやって気軽に顔を出してるじゃない」

 学园时代に比べて伸びたサイドテールを背中に払う仕草をしながら、舞は道场に入ってきた。今は冬なので、コートを羽织った姿だ。
 彼女は総太郎が旅に出てしまってから、かえでを心配してなのかちょくちょく顔を出し、组手相手をしてくれるようになっているのだ。
 自然、凉子とも以前より打ち解けている。

「そうなんだけど、今は総太郎の话をしていたのよ。噂をすれば早速道场破りに来たかな、って、私も少しドキッとしちゃった」
「なるほどね。そりゃガッカリさせちゃったかな」

 そう言いつつ、舞も壁际にやってきて寄りかかる。

「もう稽古は一通り済んじゃった感じ?」
「うん」
「ちょっと遅かったかぁ、今日は大学で色々あってさー」

 舞は以前よりもむしろ亲しい态度でかえでに接している。かえでの环境が変わりすぎたことと无関係ではないのだろう。
 しかし、彼女は话题については无远虑であった。クールダウン中のかえでと凉子に対し、世间话をした后に、デリケートとも思えるような话题を振ってゆく。

「かえでちゃんってさぁ、本気で総太郎のこと好きになっちゃったんだよね?」
「え……う、うん、まあね」

 さすがにかえでは面食らい、照れたように视线をさまよわせる。
 纯粋に好奇心からなのか、それとも他に理由があるのかは分からない。が、この话题を彼女は続ける気のようだ。

「あたしはきょうだいとかいないからよくわかんないけど、どうなんだろうね。凉子はお兄さんがいるんでしょ? どうなの、男きょうだい相手にそういう感情を持つのって」

 舞から水を向けられて、凉子は苦笑した。

「兄さん相手にそんなこと、考えたこともないわ。异性のきょうだいがいる人のほとんどはそうだと思うけど」
「わたしもあの年の夏ぐらいまでは凉子さんと同じ感じだったから、普通はそういうものだと思うよ」
「ふーん、そういうもんか。ま、そうでなきゃ世の中近亲相姦で溢れちゃうか」
「幼い顷から一绪に育っていれば、异性のきょうだいを性的に意识しないように自然となるみたいね。人间の本能でそうなっているんだって闻いたことがあるわ」

 凉子がそう説明する。かえでは少し考えて自分の家庭环境について补足した。

「ウチは両亲がいなくなっちゃってたから、普通のきょうだいよりは距离が近くなってたかもしれないです」

 互いに依存していたところがあるという自覚は総太郎にもかえでにもあった。それが原因の一つかもしれないという思いがあるのであろう。

「お兄ちゃんのことは、ずっと頼りに思ってたから」
「确かに、かえでちゃんにとってはずっと自慢のお兄ちゃんだったもんね」
「そういうところは、私とは违うわね。私も兄さんのことは大切に思ってはいるけど、実际に顔を合わせると结构さっぱりしたものだし」

 思春期顷からは异性なら自然と距离を置くことも多いだろう。凉子もあまり家庭环境は一般的なものではないのだが、それでも兄との関係は普通の兄妹の範畴内のものであった。

「なるほどねー。でも、かえでちゃんも异性として意识したのは最近みたいだし、何かきっかけがあったんだよね?」
「きっかけ、っていうと色々あると思うんだけど、最初に意识しちゃったのはわたしと凉子さんと晴香さんで脱衣麻雀をしたときのことかなあ」
「なにそれ面白そう」

 あの年の夏休みに総太郎を含めた四人で会议のようなことをした日があった。そのときに麻雀をしたのだが、総太郎は负けたため、かえで达の前で全裸にされた上に晴香の手コキで射精までさせられたのだ。 内容来自
 かえではそれを间近でまじまじと见てしまった。そうしたことを説明すると、舞はなんともいえない笑みを浮かべる。

「そのときからえっちな目を総太郎に向けるようになっちゃった感じなんだ?」
「どうなんだろ……なんていうか、最初は席を外そうかなって思ったんだけど、つい目が离せなくなっちゃって。お兄ちゃんが女性恐怖症になってから、いろんな女の人とえっちなことをしてたみたいだし、そのことでもともと好奇心持ってたのかも」

 かえでの心理にも原因があり、兄の射精するところをしっかり见てしまったというわけだ。

「で、それがすごくいやらしくて、ドキドキしちゃって。今思うとあれがきっかけだなって」

 凉子は少し苦い顔をする。

「そのときのことが原因かなっていうのは、少し思っていたのよね。だから私には责任の一端があるわけで」
「ああ、だからかえでちゃんのことをそんなに怒ってないんだ」
「……そうね」

 微妙な返事の仕方を凉子はした。含むものがあるようで、それが分かったのかかえでが凉子に目を向ける。
 が、実际には舞に声をかけた。

「で、こんなところで満足かな?」
「うん、いろいろ纳得いったよ。お兄ちゃんに恋しちゃうってのは色々大変なこともあるだろうけど、あたしは応援してるからね」
「ありがとう、舞ちゃん」

 それ以上は舞も突っ込んだことを闻く気はないようだ。彼女もかえでが神仓流に身を投じてからのことは事情を何となく知っていることもあり、きっかけを闻いたことで充分だったのだろう。

「ところで舞ちゃん、今日は稽古してくの?」
「そうだねー、せっかくだしちょっとは汗流してこうかな。更衣室借りるね」

 舞が更衣室に行ってしまうと、また二人きりになる。凉子は口数が多いほうではないので、舞がいないとこういうときはあまり会话が続かなくなるため、かえでは何か话题を探すような様子を见せたが、このときは凉子が先に话の続きを切り出した。

「さっきは舞がいたから怒っていないと言ったけれど、実际はあなたに怒りを感じなかったわけじゃないの」
「え、ええ。それは分かりますけど」
「今じゃなくて、あの顷の话ね。姫乃とはまた违った理由で、私はあなたのことを许せないと思ったときがあったわ。総太郎が冴华に负けた后、あなたが冴华と一绪についていってしまったとき」
「あぁー……」

 自分でも分かっているのか、かえでは凉子から视线をそらして気まずげな笑みを浮かべる。

「総太郎が一番つらいときにそばで支えてあげられるあなたが、よりにもよって裏切って冴华についていくなんて、って……会ったら一発ひっぱたいてやりたいって思ったわ」
「それは、その……无理もないと思います」

 申し开きのしようもない、という雰囲気でかえでは肩を缩こまらせた。

「でも、同时に兴味も涌いたのよ。あなたが総太郎に向ける亲爱の情は普通の兄妹よりもむしろ强いものだったし、それなのに裏切ったということは、総太郎のあまりの情けなさに爱想が尽きたときにむしろ彼に対する激しい失望となって现れるものなのかも、ってね」
「そんな、失望なんて」
「ええ、そういうわけじゃなかったってことは今は分かっているわ。とにかく、そのときからあなたの感情に兴味があったから、私はこの状况になってもあなたのことを见ていようと思った。そうでなければ総太郎の旅に无理やりついていったかもしれないけど」

 余计なことを口にした、という风に、凉子は一瞬后悔を表情ににじませたが、すぐに眼镜を指で持ち上げる仕草をしながら话を元に戻す。

「……今では、何となく理解できたわ。あなたは自分の望みのために総太郎を支えることを放弃した。けれど、あなたの望みを思えば、それは仕方のないことなのね。敌対するライバルになりたいなら、そのタイミングで裏切るしかなかった」

 冴华をうらやましいと思い、彼女の立场を夺いたいと思ったかえで。そして、総太郎の敌になれる千载一遇の好机をそのときに见出したのだ。

「そうです……けど、结局、お兄ちゃんはわたしを憎んではくれなかったみたいです」
「あなたが何をしても、総太郎があなたを憎むことなんて絶対にないでしょう」

 凉子が笑ってそう言うと、かえでは少し寂しげな笑みを见せた。

「正直、これでよかったのかなって思うことは今でもあります。けど、やってしまったものはもう取り返しはつきませんから、わたしはわたしのやり方でお兄ちゃんを手に入れたい」
「二人とも不器用だから、ずいぶんこじれたわね……」

 よく似ている、と凉子は言いたいのかもしれない。しかし、総太郎がかえでの立场なら、もっとストレートな方法を选んだ可能性は高く、すべてが似ているわけではないのだろう。凉子もかえでも、そのあたりは感じていた。
 凉子は少し迷った様子を见せてから、かえでに真剣な言叶をかけた。

「私はあなたたちが幸せになれるならそれでいいと思ってる。けど、あなたが総太郎を幸せにしてあげられないのなら、私はいつでも横から夺ってしまうわよ」
「はい、そのときは好きにしちゃってください。凉子さんはわたしがお兄ちゃんにひどいことをした后に支えてくれていたんですから、本来わたしなんかよりずっとその资格があると思います」

 むしろ、そうなってもいいとでも言いたげに、かえでは今日一番すっきりした笑顔を凉子に向けた。
 そして、それに対して凉子が何か言いかけたとき。
 再び、道场の扉が开いた。

「あ……」

 舞はもう更衣室に来ている。では、谁が来たのか。神仓流の谁かがやってきたのか?
 いや、冴华は総太郎を破ったその日から、一度もここには来ていないのだ。彼女たちは道场経営を轨道に乗せかけており、もう斤木流に构う理由は特にないのである。 copyright
 となれば、来访者は――

「久しぶりだな、かえで。それに凉子も」
「お兄ちゃん、帰ってきたんだ……」

 うっすらと髭を生やし、体つきが一回り大きくなった総太郎の姿。心なしか目つきも厳しくなったようである。
 道着姿の総太郎は、三年ぶりに道场に足を踏み入れた。

「俺が何をしに来たのかは分かっているだろうな、かえで」
「うん。こっちだってそのつもりで毎日锻えてたからね」

 かえでにしても、体はあの顷よりずっと锻えられている。互いに、过ぎた年月での変化を见た目からだけでも感じ取っているであろう。

「よく帰ってきてくれたね、お兄ちゃん」

 かえでの高扬した表情を目の当たりにして、総太郎は苦笑する。

「嬉しそうだな、当主の座を夺われるかもしれないってのに」
「そりゃもう、わたしはこの瞬间を待っていたんだから」

 かえでは道场の中央にゆっくり歩いて移动すると、総太郎を待ち受けるように构えを取る。

「さあ、早速やろうか。お兄ちゃんが胜ったら、当主の座はもちろん返すし、わたしのことをいくらでも好きにしていいからね」
「あのな……まあ、俺なりに好きにさせてもらうけどな」
「で、わたしが胜ったら、またあの日みたいにえっちなことをさせてもらうから」

 さすがに突っ込みを入れる総太郎であったが、すぐにため息をついて

「それだけか?」
「え?」
「俺のことを恋人として自分のものにしたいと、三年前はそう言っていたはずだが? 俺のことをそばに置くような条件を课さなくていいのか?」

 総太郎がそう言うと、かえではふっと息をついた。

「そうしたいと思ってるけど、どうせお兄ちゃんのことだし、わたしが胜ってもまた旅に出るでしょう。わたしとしてはお兄ちゃんと胜负ができればいいから、そこまでは望まないよ」
「お前が望むなら、今日ここで负ければ俺はこの道场で师範代としてやっていくことも考えている」

 総太郎の言叶に、かえではあっけにとられたようだった。

「え……」
「もう充分、武者修行はしたからな。この胜负が终われば、どんな结果だろうと俺は纳得して受け入れるつもりだ。お前が当主としてやっていく上で、俺も力になりたいと思っている」

 兄の言叶ひとつひとつが、かえでには福音のように响いたのか。その目の辉きがどんどん増していくのが総太郎にも分かり、笑みを浮かべる。

「嬉しそうなところ悪いが、俺が胜てば逆の立场になるからな。すべてを失って、以前のように俺の下风に立つ、その屈辱を受け入れてもらうからな」
「……いいねぇ。そのリスクと、胜ったときのリターンの大きさ、どっちもすごく心跃るよ」

 かえでは大きく息を吐いた。

「面白くてわくわくするよ。お兄ちゃん、この胜负、わたしは何が何でも胜ってみせるから。お兄ちゃんを师範代として、そして夫としてそばに置く、そのために今まで培ったすべてをぶつけてみせる」
「それがお前の望みか、いいだろう。お前が胜てばどちらも叶えられる」

 ことここに至って负けたならば、総太郎もかえでと结ばれることに抵抗する気はなかった。

「斤木流の顶上决戦として、最高の胜负にするとしようぜ。见ていてくれる奴もいることだしな」

 凉子と、そして更衣室から出てきた舞。二人とも、ことの成り行きを把握して真剣な顔をしつつ、壁际で见守る构えだ。
 総太郎がかえでの正面に进み出る。こうして、三年越しに二人の决戦が再び行われようとしていた。
 こうして多くのものを赌けた真剣胜负をライバルとして交わす、それこそがかえでの望んだことであったが、今や胜负の结果にそれ以上のものがかけられることとなった。果たして、どちらの望みがかなうのか。

「お前が俺にとって一番のライバルになるとはな。今や、冴华も俺の眼中にはない。お前にだけリベンジするために三年间俺は生きてきたんだ」

 そして、総太郎は半身の构えを取った。 本文来自
 兄妹は幼い顷からライバルではあったが、明确な上下関係があった。それに比べて现在は当主の座をめぐり争う完全に対等なライバル関係だ。
 総太郎も、かえでとの関係がこうなったことには、不思议な感覚もあったが――妹の中にずっと兄を上回りたいという欲求があったことに、今では喜びを覚えてもいた。格闘家というのはそうでなくてはならない。自分の器をはじめから决めてしまえば、それ以上にはなれないだろう。
 妹は、仲良しな兄妹という関係をなげうってでも兄と対等に渡り合うことを望んだ。殻を破った妹のことを寂しく思う気持ちもあったが、それ以上に高扬感がある。

「いくぞ、かえでっ!」
「よーし、来いっ!」

 そして、二人は积み上げてきた想いを技を、再びぶつけ合うのだった。



アナザーエンド11 相克の果てに


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